うつ病に対する認知行動療法(CBT)の進め方

執筆者:臨床心理士・公認心理師
医療・教育・司法・産業など幅広い領域で20年以上心理支援に従事し、認知行動療法(CBT)を中心とした心理支援を行っています。
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「薬を飲んでいるけれど、なかなか気分が戻らない」
「少し良くなってきたけれど、また落ち込んでしまう」
「自分を責めてしまうのをどうにかしたい」

うつ病の治療では、休養や薬物療法などとともに、心理療法(カウンセリング)が用いられることがあります。その代表的な一つが、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)です。

認知行動療法は、単に「前向きに考えましょう」と励ますものではありません。今の生活の中で何がつらさにつながっているのかを一緒に整理し、考え方や行動などを見直しながら、少しずつ悪循環を変えていくカウンセリングです。この記事では、うつ病に対して認知行動療法がどのように役立つのかを解説します。    

うつ病の症状や原因、治療について詳しく知りたい方は、[うつ病とは?症状・原因・治療について]もご覧ください。

この記事のポイント   

  • 認知行動療法(CBT)では、まず自分の悩みや悪循環を整理します。
  • 考え方や行動パターンを見直し、少しずつ良い循環を作っていきます。
  • 症状の改善だけでなく、ストレスへの対処や再発への備えにもつながります。  

「どう困っているのか」を整理する

認知行動療法というと、「考え方を変える」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、最初から考え方を変えようとするわけではありません。まずは、

  • 何に困っているのか
  • どんな場面でつらくなるのか
  • そのとき何を考えているのか
  • どのような行動をしているのか
  • その結果、何が起きているのか

などを一緒に整理していきます。例えば下記のような悪循環があったとします。

認知行動療法の観点から見たうつ病の悪循環のイラスト

このように整理してみると、「上司から注意されたこと」だけではなく、その後に自分を責めたり、仕事のことを考え続けたりすることで、つらさが長引いていることに気づくことがあります。

このように、自分の中で起きている悪循環に気づくことが、対処方法を考える出発点になります。

悪循環のどこに働きかけるかを考える

うつ病では、ストレスになる出来事に加えて、気分、考え方、行動、身体の状態(睡眠やだるさなど)が影響し合い、つらい状態が続きやすくなることがあります。

先ほどの例でも、「自分は仕事ができない」と考えることで落ち込み、帰宅後も仕事のことを考え続けることで、さらに不安が強くなっていました。

認知行動療法では、このような悪循環の中から、「今の自分にとって、どこを少し変えると楽になりそうか」を考えていきます。人によっては、行動を変えることが役立つかもしれません。

別の人では、自分を責める考え方を見直すことが役立つかもしれません。仕事や人間関係など、現実の問題を整理することが必要な場合もあります。

そのため、「うつ病だから、この方法をすればよい」と一律に考えるのではなく、その人が何に困っているのかを整理し、その人に合った方法で悪循環に働きかけていきます。

行動を少し変えることで、悪循環を変えていく

うつ状態になると、何かをすること自体がおっくうになります。そのため、「元気になったら活動しよう」と思っているうちに活動が減り、悩んだり自分を責めたりする時間が増えてしまうことがあります。

そこで、無理のない範囲で、少しずつ行動を見直していきます。悪循環のイラスト例では、帰宅後にソファーに座ると仕事のことを考え続けてしまうパターンがあります。そこでソファーに座らずに、お風呂に入る、家族と話しながら食事をする、家事をする、好きなことを短時間だけするなど、別の活動を試してみます。

大切なのは、「頑張ってたくさん活動すること」や「楽しむこと」ではありません。「今の自分なら、これくらいならできそう」という小さな行動を試して、気持ちが楽になる行動を見つけていきます。

一方で、仕事について考える必要があるときは、仕事の振り返りや翌日の準備をする時間をあらかじめ決めるなど、考える時間を区切り、悩み続けないようにしましょう。

「自分を責める考え方」にも目を向ける

うつ病では、物事を否定的に捉える考えが浮かびやすくなることがあります。代表的な3つの否定的な捉え方としては、

  • 自分の否定:「自分には価値がない」「自分はダメだ」
  • 周囲の否定:「迷惑をかけてしまう」「悪く思われる」
  • 将来の否定:「これからも良くならない」「どうせ失敗する」

などがあります。

認知行動療法では、こうした考えを無理やりポジティブに変えるわけではありません。まずは、否定的な考えに飲み込まれずに、「いつもの考えが出てきた」と気づけるように練習していきます。

そして、少しずつ他の捉え方を探していきます。たとえば、仕事で注意を受けたときには、

  • どれくらいの頻度で注意されているだろうか?毎回だろうか?
  • 受けた注意は、業務上の具体的な手順の問題だろうか?それとも、自分が全否定されたと受け取っていないだろうか?
  • 自分が少しやり方を変えることで解決できることと、相手や環境の問題で自分だけではどうにもならないことを分けて考えられているだろうか?

など、別の視点から振り返っていきます。そうすることで、「自分は仕事ができない」という一つの見方だけにとらわれず、少しずつ別の見方もできるようになることを目指します。

認知行動療法は「元の自分に戻る」だけが目標ではありません

うつ病になると、「病気になる前の自分に戻りたい」と思うことがあります。以前の生活を取り戻していくことは大切ですが、「以前はこれくらいできたのだから、今もできなければいけない」と考えると、かえって自分を追い込んでしまうことがあります。

認知行動療法では、「以前の自分に戻ること」だけではなく、「これからどのような生活を送りたいのか」ということも考えていきます。

例えば、

  • 家族との時間を大切にしたい
  • 趣味を楽しみたい
  • 安心して休めるようになりたい
  • 自分を責めすぎないようになりたい

など、その人によって大切にしたいことは違います。症状を減らすことだけではなく、自分にとって大切な生活を少しずつ取り戻していくことも、回復を考えるうえで大切です。

さらに、回復してからもストレスを受けて、調子を崩すこともあります。そのため、認知行動療法を通して、「自分はどんなときに調子を崩しやすいのか」「調子が落ちてきたときにどう対処するか」を理解し、身につけておくことは、再発への備えにもなります。

うつ病に対する認知行動療法(CBT)の効果

認知行動療法は、うつ病の改善に役立つことが示されています。認知行動療法では、ここまで解説してきたように、自分の中で起きている悪循環を整理し、考え方や行動などを見直しながら、ストレスへの対処方法を身につけていきます。

こうした取り組みは、症状が改善した後の再発防止にも役立つことも示されています。認知行動療法が自分に向いているか知りたい方は、下記の記事もご覧ください。

認知行動療法は、どのように進んでいくのでしょうか?

実際のカウンセリングでは、次のような流れで進んでいきます。

うつ病の認知行動療法の進み方をイラストで解説

もちろん、すべての人が同じ流れで進むわけではありません。症状の程度や生活環境、困っていることによって、取り組む内容や順番は変わります。認知行動療法は、1回で終わるものではなく、ある程度まとまった回数で取り組むことがあります。

厚生労働省の資料では、うつ病に対して16~20回程度の面接を行う方法が紹介されています。これは一つの目安であり、実際のカウンセリングでは、症状や目標などによって必要な回数は異なります。

決められた回数をこなすことが目的ではありません。うつ病の回復には時間がかかることもあるため、焦らず、その時の状態に合わせて取り組んでいくことが大切です。

認知行動療法をセルフヘルプで取り組む場合

この記事を読んでいただいている方の中には、セルフケアの方法を学んで何とかしたいという方もいらっしゃると思います。うつ病の認知行動療法に関しては、厚生労働省が公開している、うつ病に対する認知療法・認知行動療法マニュアル(患者さん向けの資料)もご参照ください。


セルフヘルプで気をつける点は、うつ病の方は自責感が強いことです。認知行動療法がうまく進まないと「自分はだめだ」と思ったり、家で休んでいると「怠けている」と、改善に取り組んでも、休んでも、自分を責めてしまうということがよくあります。

認知行動療法に取り組むこと自体が、新たな「頑張らなければいけないこと」になってしまわないように注意が必要です。自分だけでは自己否定や自責から抜け出すことが難しい場合は、専門家に相談しながら進めることも一つの方法です。

まとめ

認知行動療法(CBT)は、うつ病の治療に用いられる心理療法の一つです。認知行動療法では、単に「前向きに考える」のではなく、その人にどのような悪循環が起きているのかを一緒に整理し、

  • 行動を少し変えてみる
  • 考え方を別の視点から検討する
  • 現実の問題を整理する
  • 生活の過ごし方を見直す

など、その人に合った方法で悪循環に働きかけていきます。そして、「つらいことがあっても、自分なりに対処できる」という感覚を少しずつ取り戻していくことを目指します。

次の記事では、架空の話を通して、うつ病に対するCBTが初回から終結までどのように進んでいくのかを紹介します。カウンセリングで実際にどのようなことを話し、どのように取り組んでいくのかを知りたい方は、続けてご覧ください。

▶ 次の記事はこちら:うつ病のカウンセリング体験記|認知行動療法(CBT)の進め方を紹介

参考文献・参考資料

1.厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル」
2.日本うつ病学会「うつ病診療ガイドライン2025」
3.ジュディス・S・ベック『認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで―ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト』第3版、星和書店、2023年