「薬と認知行動療法(CBT)は何が違うのですか?」
カウンセリングをしていると、このような質問をいただくことがあります。
私自身は、どちらが良い・悪いというものではなく、それぞれ異なる役割を担っていると考えています。
薬は、つらい症状を和らげることが得意です。一方、CBTは症状が続いてしまう背景や要因を整理し、少しずつ生活を整えていくことを目指します。
どちらか一方を選ぶというより、必要に応じて組み合わせることで役立つ場合も少なくありません。
ここでは、不眠を例に違いを見ていきます。
不眠が続いたとき、まず考えたいこと
例えば、十分な睡眠がとれず、日中の生活にも支障が出ているとします。
不眠は、ストレスだけでなく、うつ病などの心の不調の初期症状として現れることがあります。また、睡眠時無呼吸症候群などの身体的な病気や、服用している薬の影響によって睡眠に問題が生じることもあります。
そのため、不眠が続いている場合や、日中に強い眠気がある場合には、生活習慣を見直すだけでなく、医療機関に相談することも大切です。
睡眠薬などの治療には、つらい症状を和らげるという大切な役割があります。
一方で、不眠の背景にストレスや生活習慣などが関係している場合には、
- なぜ眠れなくなったのか
- なぜ眠れない状態が続いているのか
- これから眠りやすくするために何ができそうか
といったことを整理していくことも大切です。
CBTでは「眠れない理由」を一緒に整理する
CBTは、睡眠薬のように短期間で眠れるようにするものではありません。
その代わり、「なぜ眠れなくなったのか」だけでなく、「なぜ今も眠れない状態が続いているのか」を一緒に整理していきます。
そして、眠りを妨げている要因を少しずつ減らし、眠りやすい生活に近づけていくことを目指します。
症状そのものだけを見るのではなく、「なぜ症状が続いているのか」という背景にも目を向けることが、CBTの特徴の一つです。こうした考え方は、症状の改善だけでなく、再び同じような状態になりにくくすることにもつながると考えられています。
眠れない理由は一つではない
例えば、寝る前にコーヒーを何杯も飲んでいれば、カフェインの影響で眠りにくくなることがあります。
この場合は、夕方以降のコーヒーを控えることで改善が期待できます。
しかし、実際にはここまで単純なケースばかりではありません。
例えば、
- 寝る前になると仕事のことを考えて緊張してしまう
- 「早く寝なければ」と焦るほど眠れなくなる
- 夜中に何度も時計を確認してしまい、さらに目が覚める
- 眠れないからと早い時間から布団に入り、かえって眠れなくなる
このように、いくつもの要因が重なっていることは珍しくありません。
CBTでは、こうした要因を一つずつ整理し、「どこを少し変えると眠りやすくなりそうか」を一緒に考えていきます。
「やめる」ではなく、代わりの方法を考える
原因がわかっても、それを変えることは簡単ではないことがあります。
例えば、夜にコーヒーをたくさん飲んでいる理由が、
- 日中のつらい気持ちを紛らわせるため
- 緊張を落ち着かせるため
だったとします。
その場合、「今日からコーヒーをやめましょう」と言われても、すぐには難しいかもしれません。
コーヒーは眠りを妨げることがある一方で、その人にとっては気持ちを支える役割も果たしているからです。
CBTでは、「やめること」だけを目標にはしません。
その人の生活に合ったリラックス方法を一緒に考えたり、緊張の背景にある問題を整理し、解決に向けて取り組んだりしながら、無理のない形で生活を整えていくことを目指します。
うつや不安では、さらに複雑になることもある
今回は不眠を例にしましたが、うつ病や不安症では、症状が続く背景はさらに複雑になることがあります。
例えば、うつでは、気力が落ちることで外出や人との交流が減り、それがさらに気分の落ち込みにつながることがあります。
また、不安では、不安を感じる場面を避け続けることで、一時的には楽になっても、不安が長引いてしまうことがあります。
そして「つらいときに休むこと」と「回復に向けて少しずつ取り組むこと」のバランスは、一人では判断が難しいこともあります。
カウンセリングやCBTでは、その人の状況を整理しながら、どのようなペースで取り組むのがよいかを一緒に考えていきます。
薬とCBTは、それぞれ得意なことが違う
薬は、つらい症状を和らげるための大切な治療法です。
CBTは、症状が続いている要因を整理し、より生活しやすい方法を一緒に見つけていく方法です。
症状が強い時期には、薬によって苦痛が軽くなることで、生活を立て直しやすくなることがあります。また、症状が少し落ち着いてきた段階でCBTに取り組むことで、再び同じ状態になりにくい生活の工夫を身につけていける場合もあります。
研究では、症状が軽い場合にはCBTが有効な選択肢となることがあり、症状が重い場合には薬物療法とCBTを組み合わせることが勧められる場合もあります。
日本では、医療機関を受診すると、まず薬物療法から始まることが少なくありません。
もし薬だけでは十分な改善が得られないと感じる場合や、「症状を繰り返さないための方法も身につけたい」と感じる場合には、主治医に相談しながらCBTやカウンセリングについて尋ねてみるのも一つの選択肢です。
執筆者
臨床心理士・公認心理師
医療・教育・司法・産業など幅広い領域で、20年以上心理支援に従事。
認知行動療法(CBT)を中心とした心理支援を行っています。
