「薬を飲んでいるけれど、なかなか気分が戻らない」
「少し良くなってきたけれど、また落ち込んでしまう」
「自分を責めてしまうのをどうにかしたい」
うつ病の治療では、休養や薬物療法などとともに、心理療法(カウンセリング)が用いられることがあります。その代表的な一つが、**認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)**です。
認知行動療法は、単に「前向きに考えましょう」と励ますものではありません。今の生活の中で何がつらさにつながっているのかを一緒に整理し、考え方や行動などを見直しながら、少しずつ悪循環を変えていくカウンセリングです。
この記事では、うつ病に対して認知行動療法がどのように役立つのかを解説します。
「どう困っているのか」を整理する
認知行動療法というと、「考え方を変える」というイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、最初から考え方を変えようとするわけではありません。まずは、
- 何に困っているのか
- どんな場面でつらくなるのか
- そのとき何を考えているのか
- どのような行動をしているのか
- その結果、何が起きているのか
などを一緒に整理していきます。例えば、
上司から注意される
↓
「自分は仕事ができない」と考える
↓
落ち込む
↓
帰宅してソファーに座る
↓
仕事のことを思い出す
↓
さらに不安になる
という流れがあったとします。
このように整理してみると、「上司から注意されたこと」だけではなく、その後に自分を責めたり、仕事のことを考え続けたりすることが、つらさを長引かせているのかもしれないと気づくことがあります。このように、自分の中で起きている悪循環に気づくことが、対処方法を考える出発点になります。
悪循環のどこに働きかけるかを考える
うつ病では、ストレスになる出来事に加えて、気分、考え方、行動、身体の状態(睡眠やだるさなど)が影響し合い、つらい状態が続きやすくなることがあります。先ほどの例でも、「自分は仕事ができない」と考えることで落ち込み、帰宅後も仕事のことを考え続けることで、さらに不安が強くなっていました。
認知行動療法では、このような悪循環の中から、「今の自分にとって、どこを少し変えると楽になりそうか」を考えていきます。
人によっては、行動を変えることが役立つかもしれません。別の人では、自分を責める考え方を見直すことが役立つかもしれません。仕事や人間関係など、現実の問題を整理することが必要な場合もあります。
そのため、「うつ病だから、この方法をすればよい」と一律に考えるのではなく、その人が何に困っているのかを整理し、その人に合ったところから取り組んでいきます。
行動を少し変えることで、悪循環を変えていく
うつ状態になると、何かをすること自体がおっくうになります。そのため、「元気になったら活動しよう」と思っているうちに活動が減り、悩んだり自分を責めたりする時間が増えてしまうことがあります。
そこで、無理のない範囲で、少しずつ行動を見直していきます。例えば、帰宅後にソファーに座ると仕事のことを考え続けてしまうのであれば、
- お風呂に入る
- 家族と話しながら食事をする
- 家事をする
- 好きなことを短時間だけする
など、別の行動を試してみます。大切なのは、「頑張ってたくさん活動すること」ではありません。「今の自分なら、これくらいならできそう」という小さな行動から始めます。
一方で、仕事について考える必要がある場合もあります。そのような場合には、仕事の振り返りや翌日の準備をする時間をあらかじめ決めるなど、「考えない」のではなく、「意識して考える時間をつくる」という方法もあります。
「自分を責める考え方」にも目を向ける
うつ病では、
「自分には価値がない」
「もっと頑張らなければいけない」
「こんなこともできない自分はダメだ」
など、自分を厳しく責める考えが浮かぶことがあります。認知行動療法では、こうした考えを無理やりポジティブに変えるわけではありません。
例えば、「自分には能力がない」と考えているときに、「そんなことありません。あなたには能力があります」と言われても、納得できないことがあります。
大切なのは
「本当にすべての仕事ができていないのだろうか」
「うまくできたことは何か」
「この考え方は、自分の生活にどんな影響を与えているだろうか」
など、別の視点から振り返れるようになることです。
目的は無理に前向きになることではありません。一つの見方に捉われている視点を、少しずつ別の視点からも捉えられるようになることを目指します。
CBTは「元の自分に戻る」だけが目標ではありません
うつ病になると、「病気になる前の自分に戻りたい」と思うことがあります。以前の生活を取り戻していくことは大切ですが、「以前はこれくらいできたのだから、今もできなければいけない」と考えると、かえって自分を追い込んでしまうことがあります。
認知行動療法では、「以前の自分に戻ること」だけではなく、「これからどのような生活を送りたいのか」ということも考えていきます。例えば、
「家族との時間を大切にしたい」
「趣味を楽しみたい」
「安心して休めるようになりたい」
「自分を責めすぎないようになりたい」
など、その人によって大切にしたいことは違います。症状を減らすことだけではなく、自分にとって大切な生活を少しずつ取り戻していくことも、回復を考えるうえで大切です。
認知行動療法は、どのように進んでいくのでしょうか?
実際のカウンセリングでは、例えば次のような流れで進んでいきます。
① 困っていることを整理する
↓
② 悪循環を整理する
↓
③ 取り組む目標を考える
↓
④ 行動や考え方を少し変えてみる
↓
⑤ 結果を振り返る
↓
⑥ 自分に合った対処方法を身につけていく
もちろん、すべての人が同じ流れで進むわけではありません。症状の程度や生活環境、困っていることによって、取り組む内容や順番は変わります。
また、うつ病が疑われる場合には、まず医療機関で診断や症状の評価を受けることが大切です。
認知行動療法は、うつ病の治療の一つとして用いられるほか、診断の有無にかかわらず、生活の中で困っていることを整理し、よりよい対処方法を考えていくためにも活用されています。
より詳しく知りたい方は、厚生労働省が公開している、うつ病に対する認知療法・認知行動療法の治療者向けマニュアルや患者さん向けの資料をご参照ください。
まとめ
認知行動療法(CBT)は、うつ病の治療に用いられる心理療法の一つです。認知行動療法では、単に「前向きに考える」のではなく、その人にどのような悪循環が起きているのかを一緒に整理し、
- 行動を少し変えてみる
- 考え方を別の視点から検討する
- 現実の問題を整理する
- 生活の過ごし方を見直す
など、その人に合った方法で悪循環に働きかけていきます。そして、「つらいことがあっても、自分なりに対処できる」という感覚を少しずつ取り戻していくことを目指します。
次の記事では、架空の話を通して、うつ病に対するCBTが初回から終結までどのように進んでいくのかを紹介します。カウンセリングで実際にどのようなことを話し、どのように取り組んでいくのかを知りたい方は、続けてご覧ください。
▶ 次の記事はこちら:うつ病のカウンセリング体験記(架空の話)
執筆者
臨床心理士・公認心理師
医療・教育・司法・産業など幅広い領域で、20年以上心理支援に従事。
認知行動療法(CBT)を中心とした心理支援を行っています。
