執筆者:臨床心理士・公認心理師
医療・教育・司法・産業など幅広い領域で20年以上心理支援に従事し、認知行動療法(CBT)を中心とした心理支援を行っています。
【執筆者プロフィールはこちら】
うつ病などで休職していると、少しずつ体調が回復してきたときに、
「どこまで回復したら仕事に戻れるの?」
「まだ不安があるけれど、復職して大丈夫なの?」
と考えることがあると思います。前の記事では、休職中の過ごし方を「休む時期」「リハビリの時期」「復職の準備時期」の3つの段階に分けて説明しました。
前半の記事はこちら
→うつ病で休職したらどう過ごす?休養から回復まで
→うつ病の休職から復職するには?復職準備と再発予防
復職の準備時期には、少しずつ仕事に近い活動を増やしていきます。では、具体的にどのような状態になれば復職できるのでしょうか。
この記事のポイント
- 復職は、症状が良くなったかだけではなく、仕事に戻った後の生活を考えて判断すること
- 働く意欲、安全な通勤、仕事に必要な活動など、復職前に確認したいポイント
- 生活リズムが安定し、活動による疲労が翌日には回復しているかを確認すること
復職の目安
「働きたい」あるいは、「働いてもいいかな」と考えられる程度まで意欲が回復しているか。では、復職に向けて、例えば以下のような点が確認事項として示されています。
- 本人が働くことへの十分な意欲を示している
- 通勤時間帯に一人で安全に通勤できる
- 決まった勤務日・勤務時間に、継続して働ける
- 業務に必要な作業ができる
- 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している
- 作業による疲労が翌日までに十分回復する
- 適切な睡眠覚醒リズムが整っている
- 昼間に眠気がない
などです。ただし、これらをすべて満たせば自動的に復職できるというものではありません。仕事内容や勤務時間、通勤方法、職場の環境などによっても、必要な条件は変わってきます。ここでは、復職を考えるときに確認しておきたいポイントを説明します。
復職の目安①|働く意欲が回復している
復職の目安として、「働くことへの十分な意欲」が挙げられています。休職している方の中には、
「働ける自信がない」
「職場に戻るのが不安」
「また体調を崩したらどうしよう」
と感じている方もいます。そのため、「働きたいと思えないから、まだ復職できないのではないか」と心配になるかもしれません。
しかし、復職前から「早く働きたい」と強く思える必要があるとは限りません。実際に復職支援をしていると、安定した期間が続く中で、「そろそろ働いてもいいかな」といった感じで、意欲が回復してくる方もいます。
一方で、リハビリを進めても働くことへの意欲がなかなか回復しない場合には、仕事上の懸念や、現在の生活の中にある悪循環などが回復を妨げている可能性があります。
例えば、職場に戻ることを考えると強い不安が出てくる場合には、「なぜ職場に戻ることがそれほど不安なのか」を整理してみることも大切です。
また、うつ病の回復には、現在の環境だけでなく、これまでの生活歴や個人側の要因など、さまざまな要因が関係しています。仕事や人間関係などのストレスと、こうした個人側の要因との関係を説明する考え方の一つに、ストレス脆弱性モデルがあります。
うつ病になる原因や、ストレスと個人側の要因がどのように関係するのかについては、こちらの記事で詳しく説明しています。
一方で、休養やリハビリを続けてもなかなか状態が改善しない場合には、現在のストレスや生活上の問題だけでなく、不安などの症状が重なっていないか、気分の波など別の要因が関係していないかなど、現在の状態をあらためて確認することもあります。
うつ病がなかなか改善しないときに考えたいことについては、こちらの記事で詳しく説明しています。
→ [うつ病がなかなか改善しないときに考えたいこと|双極症・発達症・不安症]
無理に復職を急ぐのではなく、なかなか回復しない理由や回復を妨げている要因を整理しながら、必要な対処を考えていきましょう。
焦って復職しない
生活費や職場への申し訳なさなどから、「早く復職しなければ」と焦ってしまうこともあります。しかし、症状が十分に改善していない状態で復職すると、仕事の負担によって再び体調を崩す可能性があります。
「休んでいるから、もう復職しなければ」と考えるのではなく、復職後に継続して働ける状態をつくることを考えていきましょう。
復職の目安②|安全に通勤できる
復職では、仕事そのものだけではなく、通勤を安全に行えるかという点も重要です。電車やバスを利用する場合には通勤ラッシュ、車を運転する場合には運転そのものが負担になることがあります。
普段は問題なく移動できていても、実際の通勤時間帯になると、混雑などによって思った以上に疲れてしまうことがあります。そのため、復職前には実際の通勤を想定して、自分が安全に通勤できるか確認しておくことが大切です。
車で通勤する場合には、睡眠が安定しているか、日中に強い眠気がないか、注意・集中を保てるかなども確認する必要があります。
服薬している場合には、薬の種類や服用後の眠気、ふらつきなどにも注意が必要です。運転への影響は症状や薬の種類、服用状況などによっても異なるため、運転を伴う通勤については主治医などに相談しながら判断しましょう。
実際の通勤をどのように確認すればよいのか、また職場側でどのような調整ができるのかについては、次の記事で詳しく説明します。
復職の目安③|仕事に必要な活動を続けられる
復職するためには、仕事に必要な作業をある程度継続して行えることも重要です。休職中は実際に仕事をしていないため、職場に戻ったときにどこまで仕事ができるのかは、完全には分かりません。そこで、普段の生活の中で、仕事に近い活動をどの程度続けられるのかを確認していきます。
例えば、
- 新聞を読む
- 新聞の内容を要約する
- 読書をする
- パソコンで作業する
- 資料を作成する
- 一定時間机に向かう
などです。仕事内容によっても必要な能力は異なります。パソコン作業が中心の仕事であればパソコンを使った作業、体を使う仕事であれば無理のない範囲で身体活動を行うなど、できるだけ実際の仕事に近い活動を取り入れて生活しましょう。
ただし、復職前に仕事の能力を完全に以前の状態まで戻す必要があるわけではありません。大切なのは、一定の活動を続けても大きく体調を崩さないかということです。
復職の目安④|生活リズムが安定している
復職を考えるときには、生活リズムが安定していることも重要です。
例えば、
- 決まった時間に起きられる
- 日中に強い眠気がない
- 夜にある程度まとまって眠れる
- 復職後と同じような生活リズムで過ごせる
- 活動した後に休むことで、翌日には疲労が回復している
といった点を確認します。特に重要なのが、活動した後にどの程度で回復するかという点です。
例えば、午前中に外出しただけで翌日まで強い疲れが残るのであれば、まだ復職には負荷が大きい可能性があります。一方で、ある程度活動して疲れても、休むことで翌日には回復しているのであれば、少しずつ活動量を増やしていくことも検討できます。
うつ病の復職支援をしていると、「ちゃんとやらなければ」と自分の体調を顧みずに頑張ってしまい、仕事にはついていけるものの、土日は寝たきりになっている、そんな方を見かけることがあります。
復職後の生活を続けていくためには、活動による疲労が翌日には回復しているかという点も大切です。この点については、再発防止の記事で詳しく解説します。
復職の目安をまとめると
復職を考えるときには、「症状が良くなったか」だけではなく、復職後の生活をある程度想定して考えることが大切です。確認したいポイントをまとめると、
①働く意欲
「働きたい」あるいは、「働いてもいいかな」と考えられる程度まで意欲が回復しているか。
②安全な通勤
通勤ラッシュや車の運転など、実際の通勤を安全に行える状態か。
③仕事に必要な活動
集中力や体力などが回復し、仕事に近い活動を一定時間続けても大きく体調を崩さないか。
④生活リズムと疲労からの回復
復職後と同じような生活リズムで過ごし、活動による疲労が翌日には回復しているか。
ただし、これらを本人だけで判断する必要はありません。
復職可能かどうかは、本人の状態だけではなく、仕事内容、勤務時間、通勤方法、職場の環境や復職後の支援体制なども含めて考える必要があります。主治医や産業医、職場の担当者などと相談しながら、無理なく復職できる状態をつくっていきましょう。
次の記事では、復職前に実際に行っておきたい「通勤訓練」や仕事に近い活動、復職後の勤務時間や業務量などの調整について解説します。
参考文献・参考資料
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
