社交不安症の認知行動療法(CBT)とは?不安が続く仕組みと具体的な取り組み

社交不安の認知行動療法

学校や職場で、

  • 「周りに迷惑をかけていないか」
  • 「悪く評価されているのではないか」
  • 「震えや赤面が恥ずかしい」

といった不安を抱え、困っている方もいるのではないでしょうか。

こうした不安が強く、日常生活に影響している場合、社交不安症が関係していることがあります。

社交不安症については、こちらの記事で詳しく解説しています。

→社交不安症とは?人からどう見られるかが気になるとき

社交不安症の認知行動療法(CBT)では、不安が続く仕組みを理解し、考え方や行動のパターンを少しずつ変えていくことを目指します。

例えば、人からどう見られているかを気にしすぎたり、緊張を隠そうとしたりすることが、不安を維持する要因になっている場合があります。

この記事では、ClarkとWellsの認知モデルを中心に、社交不安症の不安が続く仕組みと、認知行動療法で行う具体的な取り組みについて解説します。[1, 2]

この記事のポイント

  1. 社交不安症では、否定的な自己イメージや自己注目、安全確保行動などが、不安を維持する要因になります。
  2. 認知行動療法(CBT)では、注意の向け方を変える練習や行動実験などを通して、不安が続く仕組みに働きかけます。
  3. 不安を完全になくすことだけを目指すのではなく、不安があっても自分が望む行動をとれるようになることを目指します。

社交不安症では、なぜ不安が続くのか?

社交不安症(Social Anxiety Disorder:SAD)では、人からどう見られているかが気になり、自分の状態や相手の反応を過度に意識してしまうことがあります。その結果、実際に相手がどう反応しているのかを十分に確かめられず、不安が続きやすくなることがあります。

例えば、人前で話すときに「声が震えて、変な人だと思われるかもしれない」と考えたとします。すると、自分の声や表情、心臓のドキドキなどに意識が向きやすくなります。さらに、震えを隠そうとしたり、失敗しないように発言を控えたりすることもあります。

こうした対応によって、その場を何とか乗り切れることはあります。しかし、「自分は変に見られていたのではないか」という不安が残り、実際に相手がどう反応していたのかを確かめる機会が少なくなることがあります。

その結果、次の場面でも同じような不安が生じやすくなります。

社交不安症の認知行動療法では、特に次の3つの要素に注目します。[1, 2]

否定的な自己イメージ

社交場面(発表、電話、会食の場面など)で不安が高まると、自分が他者からどのように見られているかについて、否定的なイメージが浮かぶことがあります。

例えば、「顔が真っ赤になっている」「自信がなさそうに見えている」「周囲から変な人だと思われている」といったイメージです。

こうしたイメージは、実際に相手が自分をどう見ているかを正確に反映しているとは限りません。しかし、そのイメージを現実に近いものとして受け取ると、不安がさらに高まりやすくなります。

例:電話 → 「変な話し方をしたと周りに思われたかも」 → 不安

自己注目

不安な場面では、相手の反応や会話の内容よりも、自分の内側に注意が向きやすくなります。

例えば、相手の話を聞きながらも、「声が震えていないか」「顔が赤くなっていないか」「変なことを言っていないか」と、自分の状態を確認し続けてしまうことがあります。

その結果、相手の表情や会話の流れなど、実際の状況に関する情報を十分に捉えられなくなることがあります。

また、自分の緊張や身体の反応に注意が集中すると、それらを実際以上に目立つものとして感じることもあります。

例:会話 → 顔に注目 → 顔の熱さを感じる → 赤面しているかも → 緊張が高まる

安全確保行動

安全確保行動とは、不安を軽減したり、恐れている結果を防いだりするために行う行動のことです。

例えば、次のような行動があります。

  • 発言する前に、頭の中で何度も言葉を確認する
  • 相手の目を見ないようにする
  • 緊張を悟られないように、表情や声を過度に意識する
  • 失敗を避けるために、必要以上に準備する
  • 不安を感じる場面で、発言や交流を控える

こうした行動は、その場の不安を和らげるために役立つことがあります。一方で、「この行動をしたから失敗せずにすんだ」と受け止めることで、行動をやめにくくなることがあります。

また、安全確保行動に意識が向きすぎると、相手の反応や会話の内容に注意を向けにくくなり、実際には問題が起きていなかったことに気づきにくくなる場合もあります。[1, 2]

なお、ある行動が安全確保行動に当たるかどうかは、行動の形だけで決まるわけではありません。例えば、会話の前に準備すること自体が問題なのではなく、失敗への恐れから過度に準備し、それがないと行動できない状態になっているかなど、その行動が本人にとってどのような役割を果たしているかが重要です。[1, 2]

例:発表 → 不安 → 視線をそらす → 不安が一時的に下がる → 「視線をそらしたから何とか乗り切れた」と感じ、次の発表でも同じ行動を続けやすくなる

社交不安症の認知行動療法では、どのように取り組むのか?

認知行動療法では、先ほど紹介した要素を踏まえながら、主に次のような取り組みを行います。実際の進め方は、不安の内容や生活上の困りごとに応じて調整します。[1, 2]

自分の内側から、周囲の状況に注意を向ける

不安な場面では、自分の声や表情、身体の反応などに注意が集中しやすくなります。

そこで認知行動療法では、自分がどう見られているかを確認し続けるのではなく、相手の話の内容や表情、周囲で起きていることなど、外側の情報に注意を向ける練習を行います。

例えば、会話中に「うまく話せているか」と自分の状態を確認していることに気づいたら、相手が何を話しているのか、どのようなことに関心を持っているのかに意識を向け直します。

これは、無理に緊張をなくしたり、ポジティブに考えたりするための練習ではありません。自分の内側だけに注意が集中している状態から、実際の状況に目を向け、より多くの情報を得られるようにすることが目的です。[1, 2]

練習例:

  1. これまで:会話中に自分の顔や声ばかりを気にする
  2. 練習:相手の話の内容や表情、会話の流れにも注意を向ける
  3. 振り返り:自分の内側に注意を向けていたときと比べて、どのような違いがあったかを確かめる

行動実験を通して、予測と実際の結果を確かめる

社交不安症では、「発言したら笑われる」「緊張が伝わったら嫌われる」など、社交場面で起こることについて否定的な予測をしていることがあります。

認知行動療法では、その予測をただ否定するのではなく、実際の行動を通して確かめる「行動実験」を行います。

例えば、「会議で発言すると、周囲から変に思われる」という予測がある場合、まず何が起こると思っているのかを具体的に整理します。そのうえで、会議で一度発言してみて、実際にどのような反応があったのかを振り返ります。

その際、次のような点を確認します。

  • 実際には、どのようなことが起こると予測していたのか
  • 予測したことは、実際にどの程度起きたのか
  • 相手の反応やその場の状況から、どのようなことが分かったのか
  • 次に同じような場面があったら、何を試してみたいか

大切なのは、不安が下がったかどうかだけで結果を判断しないことです。不安が強いままでも、予測したことが起こらなかったり、予想とは違う結果になったりすることがあります。

例えば、発言中に緊張が続いていても、周囲から否定的な反応がなかったのであれば、「緊張していても、必ずしも否定的に評価されるわけではない」という新しい学びにつながる可能性があります。

エクスポージャー(不安を感じる場面に取り組むこと)でも、単に不安が下がるまで同じ場面にとどまることだけが目的ではありません。恐れていることが実際に起きるのかを確かめ、予測と結果の違いから新しい学びを得ることが重要です。[4, 5]

行動実験では、安全確保行動を少しずつ減らすことも検討します。例えば、発言前に何度も言葉を確認している場合、確認を減らしたらどうなるかを試してみます。ただし、必要な準備をすべてなくすという意味ではなく、不安を維持している行動を見極めながら取り組みます。

練習例:

  1. 予測:「発表したら、みんながつまらなそうに聞いている。それを見た私は緊張して、しどろもどろになって話せなくなる」
  2. 練習:発表中に周囲の様子にも注意を向けながら話してみる
  3. 振り返り:実際に周囲はどのような反応をしていたか。予測と一致したこと、違っていたことは何か

不安をなくそうとするのではなく、大切にしたい行動に取り組む

社交不安症では、不安や緊張を感じないようにしようとするあまり、行動そのものを避けてしまうことがあります。

例えば、「緊張していると思われたくないから会議で発言しない」「不安がなくなるまで誘いを断る」といった対応です。

不安を避けることが続くと、その場で実際に何が起こるのかを確かめる機会が少なくなり、恐れている状況への苦手意識が続くことがあります。

認知行動療法では、不安を感じなくなることだけを目標にするのではなく、不安があっても、自分が取り組みたいことに少しずつ挑戦することを大切にします。

例えば、次のような目標が考えられます。

  • 仕事で必要なことを、自分の意見として伝える
  • 親しい人との会話を楽しむ
  • 興味のある集まりに参加する
  • 人との交流を避けず、自分から話しかけてみる

こうした行動に取り組むときには、不安を無理に押さえ込もうとするのではなく、不安や身体の反応があることに気づきながら、その場でできることに取り組みます。

このような考え方は、不安をコントロールすることよりも、不安があっても自分にとって大切な行動を選ぶという、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の考え方とも共通しています。[3]

目標は、すべての場面で緊張しなくなることではありません。不安に左右されて諦めていたことに、少しずつ取り組めるようになることも、重要な変化です。

練習例:

  1. 私が取り組みたいこと:「相手に役立つことをしたい」
  2. 練習:電話をかけるときに、自分の話し方ばかりを気にするのではなく、「相手の要望をきちんと理解しよう」と意識して話す
  3. 振り返り:不安の強さだけでなく、相手の話をどの程度理解できたか、取り組みたいことに近づけたかを確かめる

過去のつらい経験が影響している場合

過去に人前で笑われた、強く批判された、失敗をからかわれたといった経験が、現在の社交不安に影響していることもあります。

その経験が繰り返し思い出され、現在の場面でも「また同じことが起きるのではないか」と感じる場合には、現在の不安だけでなく、過去の記憶がどのように影響しているかを検討することがあります。

こうした場合には、必要に応じて、過去のつらい記憶を扱うイメージ書き換えなどの方法を用いることもあります。[5]

イメージ書き換えでは、過去の出来事を思い起こし、そのときの経験や意味づけを検討したうえで、当時の自分に必要だった支援や別の視点を取り入れていきます。

ただし、過去の経験をすべて詳しく振り返る必要があるわけではありません。現在の困りごととの関連や本人の希望を踏まえながら、取り組み方を検討します。

まとめ

社交不安症の認知行動療法では、否定的な自己イメージ、自己注目、安全確保行動など、不安が続くことに関係している要素を整理し、実際の経験を通して少しずつ対処の仕方を変えていきます。

主な取り組みは、次の3つです。

  • 注意の向け方を変える: 自分の状態ばかりに注目せず、相手や周囲の状況にも目を向ける
  • 行動実験に取り組む: 恐れていることについて予測を立て、実際の結果と比較して新しい学びを得る
  • 不安があっても行動する: 不安をなくすことだけを目標にせず、自分が大切にしたいことに少しずつ取り組む

社交不安症の認知行動療法は、ただ無理に人前に出たり、考え方をポジティブに変えたりするものではありません。不安が続く仕組みを理解し、何が不安を維持しているのかを確かめながら、本人に合った方法を検討していくことが大切です。

一人で練習することが難しい場合は、相談についても考えてみましょう。

関連記事

参考文献

  1. National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Social anxiety disorder: recognition, assessment and treatment. Clinical guideline CG159. 2013. https://www.nice.org.uk/guidance/cg159
  2. Clark DM, Wells A. A cognitive model of social phobia. In: Heimberg RG, Liebowitz MR, Hope DA, Schneier FR, eds. Social Phobia: Diagnosis, Assessment, and Treatment. New York: Guilford Press; 1995:69–93.
  3. ハリス,R.著,武藤崇監訳.よくわかるACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー):明日からつかえるACT入門.星和書店;2012.
  4. Craske MG, Treanor M, Conway CC, Zbozinek T, Vervliet B. Maximizing exposure therapy: An inhibitory learning approach. Behaviour Research and Therapy. 2014;58:10–23. https://doi.org/10.1016/j.brat.2014.04.006
  5. 吉永尚紀,清水栄司.社交不安障害(社交不安症)の認知行動療法マニュアル.不安症研究. 2016;7(Special_issue):42–93. https://doi.org/10.14389/jsad.7.special_issue_42

執筆者

臨床心理士・公認心理師
医療・教育・司法・産業など幅広い領域で、20年以上心理支援に従事。
認知行動療法(CBT)を中心とした心理支援を行っています。
詳細なプロフィールはこちらをご覧ください。