認知行動療法(CBT)が知られるようになるにつれて、「認知行動療法は自分には向いていないのではないか」と考える方もいるかもしれません。例えば、
「ホームワークができない人には向かない」
「考え方を変えられない人には向かない」
「過去のことを話したい人には向かない」
「症状が重い人には向かない」
といった説明を見かけることがあります。しかし、こうしたことだけで「認知行動療法に向いていない」と判断する必要はありません。大切なのは、
・今、認知行動療法に取り組むタイミングなのか
・その人に合った進め方になっているのか
の2つです。
(タイミングに関する関連記事:カウンセリングが向いている人とは?利用を考え始めたときに知っておきたいこと)
ここでは、認知行動療法についてよくある誤解を取り上げながら、実際のカウンセリングではどのように進めていくのかを説明します。
「じっくり話を聴いてほしい人には合わない?」
認知行動療法は、話を聴くことを大切にしない心理療法(カウンセリング)ではありません。カウンセリングでは、「何について相談したいのか」「どうなりたいのか」を確認し、その人が望む変化を大切にしながら進めていきます。「今の問題を改善したい」という希望があれば、カウンセラーも一緒に考え、具体的な方法を話し合っていきます。また、「今日はまず話を聴いてほしい」という希望も大切な相談内容です。その場合には、カウンセラーからの発言を少なくして、お話を聴く時間を長くすることもあります。認知行動療法だから、話を聴いてもらえないということではありません。
「ホームワークができない人には向かない?」
認知行動療法では、話し合ったことを日常生活で試すために、ホームワーク(課題)に取り組むことがあります。しかし、ホームワークができなかったからといって、「認知行動療法に向いていない」とは限りません。その場合には、
・課題が本人に合っていたか
・やり方が分かりやすかったか
・無理なく取り組める量だったか
などをカウンセラーと一緒に振り返ります。ホームワークができなかったことを、単純に本人の意欲の問題と考えるのではなく、その人の状態や生活に合わせて、課題や進め方を調整していきます。こうした、状態や状況を把握して、その人に合った方法を考えることを「アセスメント」といいます。認知行動療法では、カウンセリングを進めながら状態を確認し、その時々に合わせて方法を調整します。
「考え方を変えられない人には向かない?」
認知行動療法は、「考え方を無理に変えるカウンセリング」ではありません。ある考え方が気分を落ち込ませたり、行動を狭めたりして、生活上の困りごとにつながっている場合に、その考え方や行動との関係を一緒に検討していきます。
そして、考え方を変えることだけが方法ではありません。行動を変えてみる、問題への対処方法を増やす、生活環境を調整するなど、さまざまな方法があります。また、「考え方を変えたいけど、なかなか変えられない」という場合には、なぜそのように考えるのか、その背景にどのような経験や気持ちがあるのかを理解することも大切です。考え方を無理に変えようとするのではなく、今の生活を少しでも良くするために、どのような方法が役立つのかを一緒に考えていきます。
「過去のことを話したい人・話したくない人には向かない?」
認知行動療法は、現在の困りごとの改善を重視します。これは、過去を軽視しているからではありません。現在の生活を少しでも良くすることを大切にしているからです。そのため、過去のことを扱わないわけではありません。例えば、現在の自己否定や対人関係の問題に過去の経験が影響している場合には、その背景を理解するために、これまでの経験を振り返ることがあります。
一方で、過去のことを話したくない場合に、無理に詳しく話してもらう必要もありません。つらい体験を思い出したくない場合も同じです。過去は相談者の状態や希望を確認しながら、必要な範囲で慎重に扱います。
「症状が重い人には向かない?」
症状が重く、安全の確保が必要な場合には、まず安全の確保や医療による治療を優先します。一方で、症状が重いからといって、認知行動療法を受けられないということではありません。例えば、うつ病などでは、状態に応じて薬物療法と認知行動療法を組み合わせることがあります。「症状が重いから認知行動療法は向いていない」と一律に判断せず、本人の希望や状態、必要な医療などを含めて、どのような支援が適切かを考えていきます。
死にたい気持ちが強い場合など、安全の確保や医療機関への相談を優先したほうがよいケースについては、こちらで詳しく説明しています。
→ [希死念慮に関するQ&A|「死にたい気持ち」があるときの適切な支援について]
「以前、認知行動療法を受けたけどうまくいかなかった。だから効果がない?」
過去に認知行動療法を受けてうまくいかなかったからといって、「CBTは自分には合わない」とすぐに判断する必要はありません。認知行動療法にはさまざまな方法があり、同じCBTでもカウンセリングの進め方は一つではありません。また、カウンセラーの経験や得意な領域、相談者との相性なども影響することがあります。うまくいかなかった場合には、「何が合わなかったのか」「どこで難しくなったのか」を振り返ってみることも一つの方法です。それでも難しい場合には、別のカウンセラーに相談したり、別の方法を検討することもできます。
認知行動療法には、さまざまな方法があります
「認知行動療法(CBT)」と一言でいっても、実際のカウンセリングではさまざまな方法や技法が用いられます。例えば、認知再構成法、行動活性化、曝露療法などがあります。うつ病、不安症、強迫症、PTSDなど、問題や症状によって用いられる方法も異なります。また、ACT、MBCT、DBTなど、認知行動療法の発展の中でさまざまな治療モデルも生まれています。
すべてのカウンセラーがこれらの方法を習得しているわけではありません。カウンセラーによって、経験のある相談内容や得意な認知行動療法の方法には違いがあります。そのため、認知行動療法を受けるときには、自分が相談したい問題について、そのカウンセラーがどのような技術や経験を持っているか確認することも大切です。
まとめ|認知行動療法が向いていないと決めつける必要はありません
「認知行動療法は、〇〇な人には向いていない」と一言で判断することはできません。ホームワークができない、考え方を変えられない、過去のことを話したくない、症状が重いといったことだけで、認知行動療法に向いていないと決める必要はありません。大切なのは、その人の状態や希望に合わせて、今どのような支援が必要なのか、どのような方法なら取り組みやすいのかを一緒に考えることです。
一方で、認知行動療法がすべての人にとって最適なカウンセリングというわけでもありません。対人関係療法(IPT)やメンタライゼーションに基づく治療(MBT)など、CBT以外でも、効果が研究されているカウンセリングがあります。たくさんの方法があるのは、良くなるための方法も一つではないからです。もし一つの方法がうまくいかなかったとしても、それだけで「自分にはカウンセリングが向いていない」と決める必要はありません。今の自分に合った支援を考えるときの材料にしてもらえればと思います。
執筆者
臨床心理士・公認心理師
医療・教育・司法・産業など幅広い領域で、20年以上心理支援に従事。
認知行動療法(CBT)を中心とした心理支援を行っています。
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