うつ病のカウンセリング体験記(架空の話)

カウンセリング前日

精神科に通院して1年がたった。薬は飲んでいるけれど、気分の落ち込みはなかなか良くならない。
「このままずっとこの状態なのかな」そんな不安を感じながらインターネットで調べていると、「認知行動療法(CBT)」という言葉が目に入った。
「薬物療法とあわせて、認知行動療法(CBT)が用いられることもあります。」そんな説明を読んで、一度受けてみようと思った。
でも、カウンセリングなんて受けたことがない。話を聞くだけで具体的なアドバイスはもらえないのかな、それとも「考えすぎですね」とか「もっと前向きに考えましょう」って言われるだけだったらどうしよう。何を話せばいいのかも分からない。
予約をしたことを少し後悔しながら、当日を迎えた。

カウンセリング初期

カウンセリングルームに入ると、まず自己紹介から始まった。
そのあとカウンセラーはこう話した。

「今日は来てくださってありがとうございます。カウンセリングでは、あなたが困っていることを一緒に整理していきます。お話しいただいた内容は、正当な理由なく外部に伝えることはありません。また、どんなことを話されても、それであなたを悪く思うことはありません。話せるところからで大丈夫ですので、今日はどんなことで来られたのか教えていただけますか。」

その言葉を聞いて、少しだけ緊張が和らいだ。
仕事のこと、人間関係がうまくいかないと感じること、自分には能力がないと思うようになったこと、思いつくまま話していくと、カウンセラーは途中で結論を出すことなく、何度もうなずきながら話を聞いていた。
その日は、「いつ頃からそう感じるようになったのでしょう。」という質問が印象に残った。振り返ってみると、異動してから仕事の内容が変わり、任される仕事も増えていた。「そういえば、あの頃からかもしれません。」そんなことを初めて口にした。
数回の面接を通して、仕事でうまくいかないことがあると、「自分が悪い」「自分には能力がない」と考え、その気持ちを何日も引きずってしまうことに気づいていった。
仕事で実際に起きていることと、自分に対する評価が、いつの間にか結びついていた。
「問題そのものよりも、自分を責め続ける時間が長いのかもしれない。」
そう思えたのは、大きな発見だった。

カウンセリング中期

自分の悪循環が少しずつ見えてきた。仕事で気になることがあると、「このままじゃいけない。」と思い、残業を増やす。家に帰っても仕事のことを考え続け、頭の中で翌日のシミュレーションを繰り返す。休んでいるつもりでも、心はずっと仕事をしていた。
その結果、疲れは抜けず、翌日も余裕がなくなる。そんな毎日だった。

カウンセラーは、「少しだけ、いつもと違う行動を試してみませんか。」と提案した。

無理に前向きになることではない。嫌なことを頑張るのでもない。仕事で不安になったら、すぐ反省を始める代わりに、

仕事で疲れを感じたら、5分だけコーヒーを飲みながら予定を整理してみる
家では仕事のシミュレーションをする代わりに、家族との会話に集中してみる。
休日には、昔好きだったプラモデルを少しだけ作ってみる。

こんなちょっとしたことをやってみることになった。
最初は、こんなことで意味があるのかな、と思っていた。でも続けてみると、不思議なことに、自分を責める時間が少しずつ短くなっていた。仕事の問題が消えたわけではないけど、仕事以外の時間まで苦しさに支配されることは減ってきた。

カウンセリング終期

気分はだいぶ落ち着いてきた。朝起きるのも以前ほど苦しくない。休日に外へ出かけようと思える日も増えた。
一方で、新しい悩みも出てきた。職場で少し休憩したり、家で自分の時間を楽しんでいると、「こんなことをしていていいのかな。」「もっと仕事のことを考えた方がいいんじゃないか。」という気持ちが出てくる。そのことを相談すると、カウンセラーはこう話した。

「その考えが浮かぶこと自体は自然なことです。でも、その考えが本当に役立っているかどうかも、一緒に見ていきましょう。『効率的だったか』だけではなく、『その後の自分の気分や生活にどんな影響があったか』という視点でも考えてみませんか。」

それからは、「仕事が進んだか」だけではなく、「今日は少しホッとできた」「家族と笑って話せた」そんなことも、一日の大切な出来事として考えられるようになった。
落ち込む日がなくなったわけではない。仕事で失敗すれば気分は沈む。でも以前のように、何日も自分を責め続けることは少なくなった。
最近はカウンセリングに行っても、「今日は特に相談したいことが思いつかないですね。」そんな日が増えてきた。うつを失くしたいと思っていたけど、「困ることがあっても、自分で立て直せる。」そう思えるようになったことが、一番大きな変化だった。

この体験記について

この体験記は、認知行動療法(CBT)の流れをイメージしやすいように構成した架空のお話です。読みやすさを重視するため、途中で出てくる停滞や試行錯誤の場面は一部省略しています。実際のカウンセリングでは、良くなったと思ったら症状が戻ったように感じたり、思うように改善しない時期があったりすることもあります。それは決して珍しいことではありません。
特にうつ病では、「もっと頑張らなければ」「早く元に戻らなければ」という気持ちが強くなり、それがかえって心身の負担につながることもあります。
認知行動療法は、無理に自分を変えようとしたり、頑張り続けたりするためのものではありません。
その人の状態やペースに合わせながら、小さな変化を積み重ね、少しずつ生活を取り戻していくことを目指します。回復のスピードは人それぞれです。
そして、症状がなくなることだけを目標にするのではなく、困ったときに自分で立て直せる方法を少しずつ身につけていくこと、その過程も、認知行動療法の大切な一部だと考えています。