曝露反応妨害法(ERP)は、強迫症に対する認知行動療法(CBT)の方法として広く用いられており、強迫症状の改善の有効であることが示されています。
曝露とは、不安や不快感を引き起こす刺激や状況に、あえて触れたり、身を置いたりすることを指します。例えば、不潔恐怖がある場合には、汚いと思うものに触ります。
反応妨害とは、不安や不快感を一時的に軽減するための強迫行為をしないことを指します。例えば、「手が汚い」と不安になっても、手を洗わないで過ごします。
つまり、曝露反応妨害法とは、あえて不安を引き起こす刺激に接触し、強迫行為をせずに、不安や不快感のある状態で過ごすという方法です。ERPは、単に「不安を我慢する」ための方法ではありません。なぜこのような方法が強迫症の改善につながるのか解説します。
なぜERPが有効なのか?
強迫症では、例えば次のような悪循環が生じることがあります。

このように悪循環が続いていくと、手洗いがやめられなくなったり、ちょっとしたことでも手を洗うようになったり、汚れていると思うものに触れなくなったりするなど、症状が広がっていくことがあります。
ここでポイントになるのは、強迫行為をすると、そのときの不安は一時的に下がるものの、長期的には強迫症の悪循環が維持されてしまうことがあるという点です。例えば、手を洗うことで「汚れているかもしれない」という不安が下がると、「不安になったら手を洗えばよい」ということを学習しやすくなります。その結果、さらに汚れが気になったり、手洗いを繰り返したりするようになることがあります。
そこでERPでは、あえて汚いと思うものに触れ、手を洗わないで過ごします。
そうすることで、「汚れていると感じても、そのまま過ごせる」「手洗いをしないで、不安なままでいても大丈夫だった」ということを実際に経験し、学習していきます。
実際の進め方
ステップ1 強迫症の悪循環を理解する
まず、上記で説明した強迫症の悪循環が、自分にも当てはまるかを確認します。
そのうえで、不安になるものや避けているものをリストアップし、不安階層表を作ります。不安階層表では、最も不安が強いものを100点として、それぞれの不安の強さを相対的に点数化します。
例えば、不潔恐怖の場合は次のようになります。
| 不安の点数 | 対象 |
|---|---|
| 100 | トイレの便座を触る |
| 80 | ゴミ箱を触る |
| 60 | ドアノブを触る |
| 40 | 床を触る |
| 20 | ゴミを捨てる |
ただし、この点数だけで取り組む順番が決まるわけではありません。実際には、不安の強さに加えて、取り組みやすさや生活への影響なども考えながら、課題を選んでいきます。
ステップ2 ERPに取り組む
ターゲットを決めたら、ERPを進めていきます。不安の点数が低く、取り組みやすいものから始めることが多いですが、最初から不安の強いものに取り組むこともあります。どのような順番で進めるかは、その人の症状や生活状況などによって異なります。
不潔恐怖のERPであれば、対象に触ること(曝露)と、手を洗うなどの強迫行為をしないこと(反応妨害)に取り組みます。反応妨害が難しい場合には、手洗いの回数や時間を減らすなど、強迫行為を段階的に減らしながら取り組むこともあります。
また、不潔恐怖では「汚れが広がることが恐い」という場合もあります。その際には、単に対象に触るだけではなく、触ったものを別の場所に触れさせるなど、「汚れを広げること」も曝露の対象になることがあります。
ステップ3 効果を確認し、次の課題に進む
特定の対象に対する不安や、それに伴う強迫行為が軽減したら、次の課題に移っていきます。
一方、ERPがうまくいかない場合には、どこでうまくいかなかったのかを振り返り、課題の内容や進め方を調整します。無理に進めるのではなく、その人が取り組める範囲を見ながら、少しずつ課題を広げていきます。
再発予防の観点からは、強迫症状そのものだけでなく、症状のために避けていることを少しずつ減らし、以前は避けていたことにも取り組めるようになることを目指します。
ERPがうまく進まないとき
① ERPは一人でできる?
ここまでお読みいただいて、「あえて不安になる体験をするって大変だな」と思った方も多いのではないでしょうか。その通りで、あえて不安になること(曝露)も、不安を感じてもいつもの強迫行為をしないこと(反応妨害)も、簡単なことではありません。セルフヘルプで取り組む方法もありますが、一人で進めることが難しいときは、専門家と一緒に取り組む方法もあります。
② ERPがうまくいかない場合
強迫症の方の中には、いろいろなものを避けて生活することが習慣化し、自分が何を避けているのか分からなくなっている方もいます。また、「頑張って曝露したのに効果が出ない」という場合には、実際には十分な曝露になっていなかったり、反応妨害をしているつもりでも、気づかないうちに強迫行為をしていたりすることがあります。加えて、強迫症の症状によっては、ERPだけでは対応が難しく、ほかの方法を組み合わせることが役立つ場合もあります。このような場合は、一人で無理に進めようとせず、専門家と一緒に症状や取り組み方を整理することも選択肢になります。
まとめ
ERPでは、不安や不快感を引き起こす状況を避けるのではなく、あえてその状況に身を置き、いつもの強迫行為をしないという経験を積んでいきます。最初から強い不安に立ち向かう必要があるわけではありません。症状や生活への影響を確認しながら、取り組める課題から少しずつ範囲を広げていきます。強迫症では、症状をなくすことだけを目標にするのではなく、強迫症状に生活を左右されず、自分が大切にしたいことに取り組める範囲を広げていくことも大切です。
次の記事では、架空の話を通して、強迫症の改善にERPがどのように役立つのかを紹介します。強迫症への認知行動療法の取り組みを知りたい方は、続けてご覧ください。
▶ 次の記事はこちら:強迫症のカウンセリング体験記|曝露反応妨害法(ERP)の進め方を紹介
執筆者
臨床心理士・公認心理師
医療・教育・司法・産業など幅広い領域で、20年以上心理支援に従事。
認知行動療法(CBT)を中心とした心理支援を行っています。
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